読むことは書くことの入口……

あるテキストを選び、その一本を徹底的に読んで解剖する。……
漫然と読むのではなく、……行間の裏まで読みこむ気迫で粘って読むのだ。一読「ああ面白かった」では気がつかなかったいろんな要素が見えてくるはずだ。……

一回読む。どんな話か、そしてびっくりする結末か、よく頭に入れた上で再読する。再読再々読再々々読……。納得するまで何度でもページをめくる。そしてノートに向かう。

 まず総ページ数を書く
 次に章割りに注意して、何章分けか、確かめる。さらに、第一章に何ページ、第二章に何ページあてられているか、章の数にしたがって、配分を書きだす
 それから各章に起こった出来事、話の進行を要約する。あまり短すぎても、だらだらと長すぎてもいけない。……

 結末を知った上で読み直すのは、作者の手管をオモテからウラから吟味するという行程でもある。一回目は気づかないで読み流してしまった伏線がいやでも見えてくる。ああ、なるほどと感心するだけではなく、チェックを入れておこう。いくつ、どんな形で嵌めこまれているかシルシをつけるのだ。……
 これは要するに、製品を分解して部品の一つひとつの性能を調べつくすことだ。……

 素材に使う作品だが、もちろん何でもいいというわけにはいかない。最初は、傑作アンソロジーなどの古典から選ぶのがいい。

野崎六助『ミステリを書く!10のステップ』(東京創元社、2002年) 15~16頁

 
新聞記事から題材をさがす……

新聞記事のなかから、それをもとにミステリが書けそうだと閃いた記事を……探しだす。
そしてなぜその記事に着目したか、できれば、どんな作品を書きたいと思ったか。
そこまでをまとめる。

新聞はいちおう全国紙の四大紙にかぎる。スポーツ紙、夕刊紙、宗教系新聞、政党紙などはとりあえず外しておく。

一日に二本から三本をノルマにして記事を拾ってみる。
最初は数を集めることに重きをおく。使えるか使えないかはあとで考えればいい。

集めたものに、A、B、Cの順で重要度のランクをつける。
Aは、ストーリーにすぐ発展させることができそうな話だ。しかし、記事そのものに作為をこらしたストーリー性の強いものが混じっている場合もあるので気をつけよう。
Bは、題材の一部に使えそうなのでチェックしておく程度のもの。
Cは、あとで役に立つかもしれないので、参考項目として念のために残しておくもの。結果として使えないことが多い。

 この作業をやる意味は次の点にある。

 一 どこからでも題材をつかみだす発想を、訓練によって高める
 二 題材さがしのプロセスをとおして己の特性を知る

……全国紙で慣れたら対象をひろげて、さらに試みることだ。日ごろ目にするスポーツ紙、週刊誌からその他の雑誌、雑多な単行本でもかまわない。

野崎六助『ミステリを書く!10のステップ』(東京創元社、2002年) 51~52頁




 
人物をデッサンする……

ここで述べていきたいのは、自覚的な人物デッサンの上達法である。
デッサンとは観察力・描写力の演習のことだ。……能力を伸ばすためには、どんな習練が必要なのか。

といっても、特別の訓練法はないのである。
街に出れば、ひたすら道行く人の観察に努める。会社勤めなら、もっぱら社内の人物を観察対象にする。そうしたやり方しかない。……

もう少し説明しよう。……
街を歩く。普通の人(もちろんそうでない人でもよいが)をそれとなく観察する。……場所……よりも、人物に着目していくわけだ。
そこから……生きた人物の観察と描写を試みてみる。絵画でいえば、水彩画や油絵にする前の段階の下書き。これは……取材に使うノートと兼用してもいいだろう。……

ひとつの方法は電車の利用だ。電車には、じつにさまざまな人間が乗っていて、あなたは豊かな観察対象に恵まれるはずだ。……
わざわざ観察のために電車にのりこむことまでは無用だ。……
ただ心構えをつくっておこう。そのうち、あなたに、電車を、観察眼を磨くための格好の訓練場とみなす機会がまわってくるだろう。……


デッサンの基本とは……
人物デッサンの基本は二点ある。
ひとつは、普通の人物の、だれもが気づかない特徴をうまく掴みだすこと。もうひとつは、特徴ある人物の、他人とは際立って違う個性に焦点をあてること


野崎六助『ミステリを書く!10のステップ』(東京創元社、2002年) 107~119頁