ニートやひきこもりなら共感できるであろう、珠玉の作品とその主人公をご紹介。
これを読めば、あなたも高等遊民としてワンランク上の存在になれること請け合いです!




トホホなインテリ、ヘタレ系

フロラン(エミール・ゾラ『パリの胃袋』)
主人公は真面目系クズ・インテリ系ニートの良いお手本。ヘタレでビビリで、働く自分に違和感を覚え、現実逃避としてフィクションにのめりこむ……という、どこかで見たような人物です。

フロランは人生の序盤において、優等生でした。
彼は強迫的なまでの努力を重ねるのですが、途中でぷっつん。生活に困り、弟の家に転がりこみます。

そこん家の嫁さんであるリザさんが、まさに「カーチャン」そのもの。
最初はやさしく接してくれたのに、好意に甘えてだらだらしてるうちに風当たりがきつくなり、「この仕事どう?」としきりにプレッシャーをかけられるという、この流れ……。

19世紀のパリも、現代の日本も、あまり変わりがないようです。



<心に残った一節>
夜になって、……時化に揺られていると、自分が情けなくなって泣きました。人に見られずに泣けるのが嬉しくて、泣きました……  *1


ああ! あの人たちは、実にまっとうだ!
あんまり健康なんで、ぼくは苦しくなってくるよ。 *2





ザッツ・サイマー

シュヴァリエ・デ・グリュー(アベ・プレヴォー『マノン・レスコー』)
天真爛漫な悪女マノン、なぞのアツい友情を示すティベルジュくん、
「DQNを通り越して完全にチンピラじゃねえか」と言いたくなるほどの主人公の大暴れなど、色々アレな作品。しかもこれが坊さんの自伝的作品というのだからすさまじい。

デ・グリューくんは放蕩息子の鑑。
考えなしに浪費しまくっては他人に金をせびるという、現代に生まれていれば多重債務者まっしぐらな漢。

「あんな奴にはもう頼るもんか」と言っておきながら、金に困ると「あなただけがぼくの救いです」と豹変する彼の心理描写はすがすがしいほどのクズっぷり。

一応純愛小説(?)らしいのだが、最初から最後まで金策に走り回っている話にしかみえない。



<心に残った一節>
(親友に向かって) 
私の欲しいのは彼の財布なのだとは思い切って言えなかった。  *3


今のようなありさまでは、貞節などは馬鹿げた徳だとは思いませんか。
パンに不自由しながら人は恋を語れるでしょうか。  *4




まもなく人生のどんづまり

ウィングフィールド姉弟(テネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』)
どっかへ行っちゃったパパ、子ども思いと毒親の境界線上にいるママ、
対人恐怖の家事手伝い(年齢=恋人なし)なおねーちゃん、クリエイター志望の弟という、
絵に描いたような底辺家庭でくりひろげられるホーム・ドラマ。

これも作者の実体験をもとにしているので、セリフのリアリティが半端なく、どこかで聞いたような言葉がビシバシ胸に突き刺さる。

弟のトムは働いてるのでフリーターといったほうが正しいのだが、彼の心情はワナビなら痛いほど分かるはず。



<心に残った一節>
お母さん、ローラは小さなガラスの動物の世界に閉じ籠ってる――古ぼけたレコードをかけて――
それに――いや、それだけだ――  *5








<出典>

*1:エミール・ゾラ『パリの胃袋』(藤原書店、2003年) 124頁
*2:エミール・ゾラ『パリの胃袋』(藤原書店、2003年) 153頁
*3:アベ・プレヴォ『マノン・レスコー 改版』(岩波書店、1957年) 66頁
*4:アベ・プレヴォ『マノン・レスコー 改版』(岩波書店、1957年) 74頁
*5:テネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』(劇書房、1993年) 61頁

 
 



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